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症例供覧

黒い影は何?(扁平顎骨の形態)

Q: 右側下顎65は通常埋入、43は抜歯即時埋入です。このパノラマだけの画像診断でインプラントの埋入手術を行ってもよいでしょうか?

パノラマ画像
図1:下顎骨の全体が黒っぽく見えるパノラマ画像。(東京都ご開業 服部 操先生よりご提供)

A:ノー! インプラント治療では必ずCT撮影を行うべきです。

 

押さえどころ

パントモでは想像できない顎骨の頬舌的形態。事故回避のために100%CT撮影!

ボトム

 

解説

■パノラマの所見:

下顎なのでまずは下顎管を読影することになりますが、下顎骨全体が黒くて見えません。 しかし 65の埋入部では海綿骨が見えるので、通常の長さ(11~13mm前後)のインプラントであれば埋入ができそうです。また、抜歯即時埋入の43では尖端部に初期固定を求めて多少ドリルを深くする必要がありますが、オトガイ孔間への埋入のため恐らく問題はなさそうです。しかし、本症例には大きな落とし穴があります。

 

図2:右側3番(55番の断面)では抜歯窩の尖端から3mmもドリルをしないうちに下顎骨に当たってしまう。
図3:抜歯窩から3mm根尖側に舌側の皮質骨があるならば、パントモ上では白い点線部分となる。

■CT撮影をすると:

CT撮影によって下顎骨の頬舌側断面をみると、顎骨が大きく扁平しており、パノラマ画像で見えた黒い影は、顎骨の厚みが明らかに薄いことが理由だとわかりました(図2)。このようなな顎骨形態を、パノラマから想像ができたでしょうか。

 特に抜歯即時埋入部位の43では、抜歯窩から3mmもドリルをしないうちに舌側の皮質骨に接触してしまいます(図2の断面55番)。パノラマでいうなら、白い点線あたりとなります(図3)。パノラマで顎骨形態を読影しきれていない場合には、まさかそんな場所に皮質骨があるとは認識できないため、ドリルをすすめて下顎骨舌側に穿孔をしてしまうことでしょう。結果、下顎舌側の動脈を損傷させ、場合によっては患者さんを死に至らしめてしまう危険性へとつながっていきます(下顎舌側の解剖については、またの機会にお話します)。

 

■触診で十分?:

口腔外科出身の先生の中には、「触診でわかるだろう。」とおっしゃる先生もいらっしゃることでしょう。しかし、十河は触診で全て症例の顎骨を把握できるとは思えません。
 補綴を専門にしてきた者から申し上げると、総義歯で顎骨吸収の著しい患者さんほど、舌側(顎舌側筋窩)の印象がなかなか採れないことを経験します。すなわち、歯槽骨の吸収が著しいと顎舌側筋線の骨の張り出しが強く、顎舌側筋の緊張も強く、さらには嘔吐反射も強い場合が結構多くみられ、そのような患者さんではなかなか顎舌骨筋窩の触診がなかなか難しいといえます。

 

■骨量診断:

このようにパノラマでは目や指で診えない骨形態を、CT撮影では一目瞭然に把握できる、すなわち「骨量診断」のできるメリットがあります。

 

 
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