Q: オトガイ孔の位置については前回の症例供覧でお話しましたが、今回も同じ症例を見ていただきます。「下顎無歯顎のオトガイ孔間に何か見えるでしょうか?」

A:パノラマではわかりませんが、CT(下記は医科用CTによる画像)で見ると、そこには「網目状に何かがある!」ことがわかります。 それが切歯枝です。


オトガイ孔間の前方ループの前には、切歯枝がある!パノラマでは見えてなかっただけ?

解説
下顎管の中を本管後方から黄色の線でなぞっていくと(左図)、オトガイ孔間に、まるでウナギの寝床のように枝が伸びていることがわかります。
上條先生の「口腔解剖学(骨学)」を紐解くと、有歯顎時代の説明ですが前歯部の歯根へつながる神経として「切歯枝」が記載されています。太い切歯枝は、通常2番の舌側付近で開口しているそうです。
その文章から想像すると、本症例で見えているオトガイ孔間の網目模様は、抜歯後残っている「切歯枝」の残遺ではないかと考えられます。そして、著しい顎堤吸収によって一番太い切歯枝の開口部も含め歯槽頂から出ているのではないでしょうか。
■「埋入しても大丈夫?」:
さて、ここで臨床をする上で気になるのは「切歯枝が見えているのに、この部分にインプラントの埋入をしても大丈夫なのか?麻痺は起こらないのか?」といった疑問です。
十河はこう考えています。1965年ブローネマルク先生がオトガイ孔間にインプラントを埋入する手術を実際の患者さんに行って以来、世界中で何千、何万と同じ手術が行われてきたことでしょう。 しかし、オトガイ孔間では下顎管の前方ループを引っ掛けたりしない限り神経麻痺の報告は見当たりません。
切歯枝は昔から存在しているはずです。しかし、パノラマは厚みのある断層像であり、かつ正中部では脊椎の障害陰影があるためにこれまで切歯枝の残遺が読影ができなかった可能性があります。 ところが近年、インプラントの術前にCT撮影をルーティーンに行う時代になって、「突然、CTのMPR像で切歯枝が見え出しただけではないか?」というのが十河の仮説です。
したがって、オトガイ孔の前方ループの前面壁から2mm以上インプラントの外形を離せば、切歯枝を貫いてインプラントが埋入されても「下顎管麻痺は起こらないのではないか」と思っています。