「DICOMデータ」は生データではなく、「投影データ」が生データである。
「CT画像はX線の影絵」や「連続X線とパルスX線」で申し上げているように、CT撮影では被写体を取り囲む360度全周方向からの単純撮影が行われています。この単純撮影のように検出器に映し出されるX線データのことを「投影データ(プロジェクションデータ、 projection data)」と呼びます(図1)。
さて、CTを勉強していくと「DICOMデータ」という言葉をよく耳にします。DICOMとは、Digital Imaging and COmmunication in Medicineの略称で、「『医用画像情報』ならびに『医用通信プロトコル』に関する国際的な標準規格」のことをいいます。CTの勉強を始めた頃の十河もそうだったのですが、多くの先生方がDICOMという言葉を聞くと、連想するのはCTの連続した水平断面(参照:MPRとは)ではないでしょうか(図2)。そして、これらのスライス画像をソフトに読み込んだ後にCTの3次元画像が出来るので、このDICOMデータのことを、「CTの生データだ」と思っていらっしゃる先生も多いのではないでしょうか?実はそれは間違いです。 DICOMデータは「生データ ( ローデータ、raw data)」ではありません。DICOMデータは3次元を作るために「再構成」という「調理」が行われたデータなので、魚でいう「刺身」のような生の状態ではないのです。 では「生データは何か?」 それはまさにX線が照射された直後に検出器が受け取るデータそのもの、すなわち「投影データ」こそが「生データ」なのです。お間違いなきように!
検出器が受け取ったX線のデータ、言い換えると調理が何ひとつ加わっていない「生データ」は、パソコンの奥底に隠されていることが多いので使い手(ユーザー)にはあまり知られていません。また一般的に、生データは取り出すことができませんし、DICOM以外の生データを保存してしまうと莫大なデータ量となるためその保存期間も短いようです。例えば、インプラントの診断のために大きな病院の医科用CTでCT撮影を行った後、「再構成を『骨関数』ではなく、誤って『軟組織関数』で再構成されていた」場合には、撮影後1~2日であれば生データは残っていて「再構成」をやり直して再度DICOMを『骨関数』に変えて出力できることもあります。しかし、1週間も経ってしまうと生データは保存されていないことが多く、注意をしなければなりません。